おしょうさんと小(こ)ぞう

作(さく) 楠山(くすやま)正雄(まさお)
楠山(くすやま)正雄(まさお)の収録(しゅうろく)作品(さくひん)を立命館(りつめいかん)大学(だいがく)DAISY研究(けんきゅう)会(かい)が現代(げんだい)版(ばん)に改作(かいさく)しました。


大(たい)そう けちんぼな おしょうさんが いました。
なにか よそから もらっても、いつでも じぶん一人(ひとり)で ばかり たべて、
小(こ)ぞうには 一(ひと)つも くれませんでした。
小(こ)ぞうは それを くやしがって、いつか すきを 見(み)つけて、
おしょうさんから、おいしい ものを とり上(あ)げて やろうと かんがえていました。

ある日(ひ)、おしょうさんは だんかから、大(たい)そう おいしい あめを もらいました。
おしょうさんは その あめを つぼの 中(なか)に 入(い)れて、そっと ぶつだんの 下(した)に かくして、
ないしょで ひとりで なめていました。

ところが ある日(ひ)、おしょうさんは、ようじが あって そとへ 出(で)て いきました。
出(で)て いきがけに、おしょうさんは 小(こ)ぞうに いいつけて、
「この ぶつだんの 下(した)の つぼには、だいじな ものが 入(はい)っている。見(み)かけは あめの ようだけれど、
ほんとうは、一(ひと)口(くち)でも なめたら、ころりと まいってしまう ひどい どくやくだ。
いのちが おしいと おもったら、けっして なめては ならないぞ。」
と いって、出(で)て いきました。

おしょうさんが 出(で)てしまうと、
小(こ)ぞうは さっそく つぼを ひきずり出(だ)して、のこらず あめを なめて しまいました。
それから おしょうさんの 大(たい)せつにしている ちゃわんを、
わざと まっ二(ふた)つに わって、じぶんは ふとんを かぶって、うんうん うなりながら、
いまにも しにかけて いるような ふりを していました。

夕(ゆう)がたに なって、おしょうさんが かえってきて みますと、
中(なか)は まっくらで、あかりも ついて いませんでした。
おしょうさんは おこって、
「こらこら、小(こ)ぞう、なにを している。」
と どなりました。

すると、小(こ)ぞうは ふとんの 中(なか)から、むしの なく ような こえを 出(だ)して、
「おしょうさん、ごめんなさい。わたしは しにます。もう とても たすかりません。
しんだ あとは、かわいそうだ とおもって、おきょうの 一(ひと)つも よんで 下(くだ)さい。」
と いいました。
おしょうさんは、だしぬけに みょうなことを いわれて、びっくりしました。
「小(こ)ぞう、小(こ)ぞう、いったい どうしたのだ。」
「きょう、おしょうさんの たいじな おゆのみを あらって いますと、
いきなり ねこが じゃれかかって きて、その ひょうしに 手(て)を すべらして、
おゆのみを おとして こわして しまいました。
もう これは しんで おわびを するより ほかは ないと おもって、
つぼの 中(なか)の どくやくを 出(だ)して、のこらず たべました。
もう どくが からだ中(じゅう)に まわって、まもなく しぬでしょう。
どうか かんにんして、おきょうだけでも よんで やって下(くだ)さい。
ああ、くるしい。ああ、くるしい。」
と いいながら、おいおい、おいおい、なきました。

ある日(ひ)、おしょうさんは、ほうじに よばれて いって、小(こ)ぞうが 一人(ひとり)で おるすばんを していました。
おきょうを よみながら、うとうと いねむりを していますと、げんかんで、
「ごめん下(くだ)さい。」
と 人(ひと)の よぶ こえが しました。
小(こ)ぞうが あわてて、目(め)を こすり こすり、いって みますと、
おとなりの おばあさんが、大(おお)きな ふろしき づつみを もってきて、
「おひがんで ございますから、どうぞ これを おしょうさんに あげて下(くだ)さい。」
といって、おいて いきました。
小(こ)ぞうは ふろしきづつみを もち上(あ)げてみますと、
中(なか)から あたたかそうな ゆ気(げ)が たって、ぷんと おいしそうな においが しました。

小(こ)ぞうは、
「ははあ、おひがんで おだんごを こしらえて もって きたのだな。
これを おしょうさんに このまま わたして しまえば、
どうせ けちんぼで よくばりの おしょうさんの ことだから、みんな じぶんで たべてしまって、
一(ひと)つも くれないに きまっている。
よしよし、ちょうど いい、ねむけざましに たべてやれ。」
と、こう ひとりごとを いいながら、ふろしきづつみを ほどくと、
大(おお)きな じゅうばこに いっぱい、おいしそうな おだん子(ご)が つまっていました。

小(こ)ぞうは にこにこ しながら、おだん子(ご)を ほおばって、
もう一(ひと)つ、もう一(ひと)つと、たべる うちに、
とうとう じゅうばこに いっぱいの おだん子(ご)を、きれいに たべて しまいました。

たべて しまって、小(こ)ぞうは はじめて 気(き)が ついたように、
「ああ、しまった。おしょうさんが かえって きたら どうしよう。」
と、こまった かおをしました。
そのうち、ふと なにか おもいついた とみえて、
いきなり じゅうばこを かかえて、本(ほん)どうへ かけ出(だ)して いきました。
そして、ご本(ほん)ぞんの あみださまの お口(くち)の まわりに、じゅうばこのふちに たまった あんこを、
ゆびで かきよせては、こてこてと ぬりつけました。
そして、じゅうばこを あみださまの まえに おいて、へやに かえって きて、
しらんかお をして おきょうを よんで いました。

しばらくすると、おしょうさんは かえってきて、
小(こ)ぞうに、
「るすに だれも こなかったか?」
と たずねました。


「おとなりの おばあさんが、じゅうばこを もって きました。
おひがんだから おしょうさんに あげて下(くだ)さいと いいました。」
と、小(こ)ぞうは こたえました。
「そのじゅうばこは どこに ある。」
「本(ほん)どうの ご本(ほん)ぞんさまの まえに おそなえして おきました。」
「うん、それは なかなか 気(き)が きいている。どれ、どれ。」
と いいながら、おしょうさんは 本(ほん)どうへ いって みますと、
なるほど じゅうばこが うやうやしく、ご本(ほん)ぞんの まえに おそなえされて いましたが、
あけて みると、中(なか)は きれいに からに なっていました。

「これこれ、小(こ)ぞう。
おまえが たべたのだな。」
と、おしょうさんは 大(おお)きな こえで どなりつけました。

すると 小(こ)ぞうは すまして、のこのこ やってきて、
「へええ、とんでもない。そんな ことが あるものですか。」
と いいながら、そこらを きょろきょろ 見(み)まわして、
「ああ、わかりました。ご本(ほん)ぞんの 金(かな)ぶつさまが めし上(あ)がったのです。
ほら、あのとおり お口(くち)の はたに、あんこが いっぱい ついています。」
というと、おしょうさんは それを 見(み)て、
「なるほど あんこが ついている。
おぎょうじの わるい 金(かな)ぶつさまも あれば あったものだ。」
と いいながら、おこって 手(て)に もっていた ほっ子(す)で、金(かな)ぶつさまの あたまを 一(ひと)つ たたきました。

すると
「くわん、くわん。」
と 金(かな)ぶつさまは なりました。
「なに、くわんことが あるものか。」
と、また おこって 二(に)ど つづけざまに たたきますと、
また、
「くわん、くわん。」
と なりました。
そこで おしょうさんは、また 小(こ)ぞうの ほうを ふりかえって みて、
「それ 見(み)ろ、金(かな)ぶつさまは いくら たたいても、くわん、くわんと いうぞ。
やはり おまえが たべたに ちがいない。」
すると 小(こ)ぞうは こまった かおを して、
「たたいた ぐらいでは 白(はく)じょうしませんよ。かま ゆでに して おやんなさい。」
と いいました。

そこで 大(おお)きな おかまに いっぱい おゆを わかして、金(かな)ぶつさまを ほうりこみました。
すると まもなく、おゆが ぐらぐら にたぎってきて、
「くった、くった、くった。」
と いいました。
「そら ごらんなさい、おしょうさん。とうとう 白(はく)じょうしましたよ。」
と、小(こ)ぞうさんは とくいそうに いいました。