おにのあらそい

文(ぶん):野呂(のろ) 昶(さかん)
制作(せいさく):立命館(りつめいかん)大学(だいがく)DAISY研究(けんきゅう)会(かい)








森(もり)の 中(なか)の 小(ちい)さな 草(そう)げんで、赤(あか)おにと 青(あお)おにが むかいあって、すわっていました。
目(め)の まえに、はこと くつと、こづちが おかれて いました。
どれも りっぱな さいくの たからものでした。
その 上(うえ)を、木(こ)の はから こぼれおちた 日(ひ)のひかりが、ちろちろ ゆらいでいました。




さっきから、おにたちは、この みっつの たからものを、二(ふた)つに びょうどうに わけようと しているのでした。
ところが、どうしても うまく いきません。
「はこ」と「くつ」、そして、「こづち」。「はこ」と「こづち」、そして、「くつ」。
あるいは、「くつ」と「こづち」、そして、「はこ」・・・。
どう わけても、二(ふた)つと 一(ひと)つに なってしまいます。






そのうち、おにたちは おこりだしました。
赤(あか)おには、「うまく いかないのは、おまえの せいだ」と、どなりました。
すると、青(あお)おにも、「おまえが なにか、わるだくみを しているから、わけられないのだ」と、どなり かえしました。
おたがいに、いまにも とっつかみあいを はじめそうな いきおいです。





そこへ、一人(ひとり)の 男(おとこ)が とおりかかりました。
男(おとこ)は、「よせ、よせ。つまらん けんかは、よせ。」
おにたちの 中(なか)に わけて 入(はい)りました。
「ところで、なにが もとで、けんかを しているんだ?」
そこで、おにたちは、わけを はなしました。
「なんだ。そんな つまらないことで、けんかを しているのか。」







「いや、つまらない ことでは ないぞ。
この はこは、ねがえば じぶんの ほしいものは、なんでも 出(で)てくるし・・・。」
赤(あか)おにが とくいがおで いいました。
「この くつは、空(そら)の 上(うえ)でも 水(みず)の 上(うえ)でも、おもいのまま あるける まほうの くつだ。」
「ほう、それは すごい!」
男(おとこ)が かんしんしました。

「それに、このこづちは・・・。」
こんどは、青(あお)おにが いいました。
「これで たたくと、どんな 大(おお)きな ものも、まめつぶほどに 小(ちい)さく なってしまう。
これさえ あれば、どんなに つよい てきにも まけることは ない。」
「それは、ますます、すごい!」
男(おとこ)は、びっくりした ようすで いいました。








「ところで、おまえは、なかなか かしこそうな かおを しているから、たのむのだが・・・。」
おにたちは、口(くち)を そろえて いいました。
「この はこと、くつと こづちを、わしたち 二(ふた)人(り)に びょうどうに わけてもらえまいか。」
「ふむ、それは なかなか むずかしい。」
男(おとこ)は、うでを くんで いいました。
「できないか?」






「いや、できないことは ない。」

「では、たのむ。」
「それでは、まず、その たからものを、わしの 目(め)の まえに もってきてくれ。」
おにたちは、いわれる ままに しました。
「じゃ、いまから、しっかり 目(め)を つむって 二(に)十(じゅう)を かぞえてくれ。
とちゅうで、けっして 目(め)を あけては いけないぞ。」
「いいとも!!」

おにたちは、目(め)を つむって、かずを かぞえ はじめました。






男(おとこ)は、いそいで、くつを はき、はこと こづちを 手(て)に もちました。
すると、男(おとこ)の からだは 空(そら)に うきあがり、そのまま 上(うえ)に あるいていくと、おにたちの すがたが、ずいぶん 小(ちい)さく なってきました。

そこで 男(おとこ)は、大(おお)ごえで いいました。
「もう、目(め)を あけて いいぞ! どうだ、それで 二(ふた)人(り)とも、なにも なくなり びょうどうに なった。
もう、けんかは するなよ。」



出典(しゅってん) 福(ふく)蓋(がい)正行(しょうぎょう)所(しょ)集(じっ)経(きょう)