一寸法師(いっすんぼうし)

作(さく):楠山正雄(くすやままさお)

制作(せいさく):立命館大学(りつめいかんだいがく)DAISY研究会(デイジーけんきゅうかい)
楠山(くすやま)正雄(まさお)に よる 収録(しゅうろく)作品(さくひん)に、Rits DAISYが現代(げんだい)版(ばん)と して 改作(かいさく)を 加(くわ)えました。

1


むかし、摂津(せっつ)国(のくに)の 難波(なにわ)と いう 所(ところ)に、

夫婦(ふうふ)が 住(す)んでいました。

子供(こども)が 一人(ひとり)も いないので、

住吉(すみよし)の 明神(みょうじん)さまに、おまいりを しては、

「どうぞ 子供(こども)を 一人(ひとり) おさずけ ください。

それは 指(ゆび)くらいの 小(ちい)さな 子(こ)でも よろしいですから。」

と 一生懸命(いっしょうけんめい)に お願(ねが)いしました。

すると 間(ま)もなく、夫婦(ふうふ)には 子供(こども)が できました。

「わたしどもの お願(ねが)いが かなったのだ。」

と 夫婦(ふうふ)は よろこんで、子供(こども)の 生(う)まれる 日(ひ)を、

今日(きょう)か 明日(あす)かと 待(ま)ち続(つづ)けました。

やがて 奥(おく)さんは 小(ちい)さな 男(おとこ)の 赤(あか)ちゃんを 生(う)みました。

ところが それが また 小(ちい)さく、

ほんとうに 指(ゆび)くらいの 大きさしか ありませんでした。

「指(ゆび)くらいの 大(おお)きさの 子供(こども)でも、

と お願(ねが)いしたら、ほんとうに 指(ゆび)くらいの

大(おお)きさの 子供(こども)を 明神(みょうじん)さまが くださった。」

と 夫婦(ふうふ)は 笑(わら)いながら、この 子供(こども)を だいじに して 育(そだ)てました。

ところが この 子(こ)は、いつまで たっても

指(ゆび)ほどの 大(おお)きさより 大きくは なりませんでした。

夫婦(ふうふ)も あきらめて、その 子(こ)に 一寸法師(いっすんぼうし)と 名前(なまえ)を つけました。

一寸法師(いっすんぼうし)は 五(ご)歳(さい)に なっても、やはり 背(せ)が のびません。

七(なな)歳(さい)に なっても、同(おな)じ ことでした。

十(じっ)歳(さい)に なっても、やはり 一寸法師(いっすんぼうし)でした。

一寸法師(いっすんぼうし)が 道(みち)を 歩(ある)いていると、

近所(きんじょ)の 子供(こども)たちが 集(あつ)まってきて、

「やあ、ちびが 歩(ある)いている。」

「ふみ殺(ころ)されるなよ。」

「つまんで かみつぶして やろうか。」

「ちびやい。ちびやい。」

と 口々(くちぐち)に いって、からかいました。

一寸法師(いっすんぼうし)は だまって、にこにこして いました。



2

一寸法師(いっすんぼうし)は 十(じゅう)六(ろく)歳(さい)に なりました。

ある 日(ひ)、一寸法師(いっすんぼうし)は、

おとうさんと おかあさんの 前(まえ)へ 出(で)て、

「どうか わたくしに おやすみを ください。」

と いいました。

おとうさんは びっくりして、

「なぜ そんな ことを いうのだ。」

と 聞(き)きました。

一寸法師(いっすんぼうし)は、はりきった 顔(かお)を して、

「これから 京都(きょうと)へ 行(い)こうと 思(おも)います。」

と いいました。

「京都(きょうと)へ 行(い)って どうする つもりだ。」

「京都(きょうと)は 天皇(てんのう)さまの いらっしゃる 日本一(にっぽんいち)の都(みやこ)ですし、

おもしろい しごとが たくさん あります。

わたくしは そこへ 行(い)って、運(うん)だめしを してみようと 思(おも)います。」

そう 聞くと おとうさんは うなずいて、

「よしよし、それなら 行(い)っておいで。」

と 許(ゆる)してくれました。

一寸法師(いっすんぼうし)は とても よろこんで、

さっそく 旅(たび)の 準備(じゅんび)に かかりました。

まず おかあさんに ぬい針(ばり)を 一(いっ)本(ぽん)もらい、

麦(むぎ)わらで 柄(え)と さやを 準備(じゅんび)して、刀(かたな)に して 腰(こし)に さしました。

それから 新(あたら)しい おわんの お舟(ふね)に、

新(あたら)しい おはしの かいを つけて、

住吉(すみよし)の 浜(はま)から 船(ふね)に 乗って 出発(しゅっぱつ)しました。

おとうさんと おかあさんは 浜べまで 見送(みおく)りに きてくれました。

「おとうさん、おかあさん、では 行(い)ってきます。」

と 一寸法師(いっすんぼうし)が いって、舟(ふね)を こぎ出(だ)しますと、

おとうさんと おかあさんは、

「どうか 元気(げんき)で、偉(えら)くなっておくれ。」

と いいました。

「ええ、きっと 偉(えら)くなってみせます。」

と、一寸法師(いっすんぼうし)は こたえました。

おわんの 舟(ふね)は 毎日(まいにち)少(すこ)しずつ 淀川(よどがわ)を 進(すす)んで 行(い)きました。

しかし 舟(ふね)が 小(ちい)さいので、

少(すこ)し 風(かぜ)が 強(つよ)く 吹(ふ)いたり、

雨(あめ)が 降(ふ)って 水(みず)かさが 増(ま)したりすると、

舟(ふね)は たびたび ひっくり返(かえ)りそうに なりました。

そういう 時(とき)には、しかたが ないので、

石(いし)の 壁(かべ)の 間(あいだ)や、橋(はし)の 柱(はしら)の 陰(かげ)に 舟(ふね)を 止めて休(やす)みました。

こんな 風(ふう)にして、一(いっ)カ月(げつ)も かかって、

やっとの ことで、京都(きょうと)に 近(ちか)い 鳥羽(とば)と いう 所(ところ)に 着(つ)きました。

鳥羽(とば)で 舟(ふね)を 降(お)りると、

もうすぐ そこは 京都(きょうと)の 町(まち)でした。

五条(ごじょう)、四条(しじょう)、三条(さんじょう)と、

にぎやかな 町(まち)が つづいて、切(き)れることなく 馬(うま)や 車(くるま)が 通(とお)って、

とても たくさんの 人(ひと)が いました。

「なるほど、京都(きょうと)は 日本一(にっぽんいち)の 都(みやこ)だけあって

にぎやかな もの だなあ。」

と、一寸法師(いっすんぼうし)は 行ったり 来(き)たり している 人(ひと)の

下駄(げた)の歯(は)を よけて 歩(ある)きながら、何度(なんど)も 感心(かんしん)していました。

三条(さんじょう)まで 来(く)ると、

たくさん りっぱな 家(いえ)が 立(た)ち並(なら)んだ 中(なか)に、

いちばん 目(め)立(だ)つ りっぱな 門(もん)の お屋敷(やしき)が ありました。


一寸法師(いっすんぼうし)は、

「なんでも 偉(えら)く なるには、まず だれか えらい 人(ひと)の 家来(けらい)に なって、

それから だんだんに 上(うえ)に いかなければ ならない。

これこそ いちばん えらい 人(ひと)の 家(いえ)に 違(ちが)いない。」

と 思(おも)って、のこのこ 門(もん)の 中(なか)に 入(はい)って いきました。

広(ひろ)い 砂利道(じゃりみち)を 長(なが)い 間(あいだ)歩(ある)いて、

大(おお)きな 玄関(げんかん)の 前(まえ)に 立(た)ちました。

たしかに ここは 三条(さんじょう)の 宰相(さいしょう)殿(どの)と いって、

お金持(かねも)ちの 大臣(だいじん)の 家(いえ)でした。

一寸法師(いっすんぼうし)は、ありったけの 大(おお)きな声で、

「ごめんください。」

と どなりました。

でも 聞(き)こえないのか、だれも 出(で)てこないので、

こんどは いっそう 大(おお)きな 声(こえ)を 出(だ)して、

「ごめんください。」

と どなりました。

三(さん)回(かい)めに 一寸法師(いっすんぼうし)が、

「ごめんください。」

と どなった 時(とき)、ちょうど どこかへ おでかけに なる つもりで、

玄関(げんかん)まで 出(で)てきた 宰相(さいしょう)殿(どの)が、

その 声(こえ)を 聞(き)きつけて、出てきました。


しかし だれも 玄関(げんかん)には 居(い)ませんでした。

ふしぎに 思(おも)って あたりを 見(みまわ)回()すと、

そろえて ある はきものの 陰(かげ)に、

豆(まめ)粒(つぶ)の ような 男(おとこ)が 一人(ひとり)、

反(そ)り返(かえ)りながら つっ立(た)っていました。

宰相(さいしょう)殿(どの)は びっくりして、

「お前(まえ)か、今(いま)呼(よ)んだのは。」

「はい、わたくしで ございます。」

「お前(まえ)は 誰(だれ)だ。」

「難波(なにわ)から まいりました 一寸法師(いっすんぼうし)です。」

「なるほど 一寸法師(いっすんぼうし)に 違(ちが)いない。

それで わたしの 家(いえ)に 来(き)たのは 何(なん)の 用(よう)だ。」

「わたくしは 偉(えら)く なりたいと 思(おも)って、

京都(きょうと)へ わざわざ来(き)ました。

一生懸命(いっしょうけんめい)働(はたら)きますから、

どうか お屋敷(やしき)で お手(てつだ)伝い させて下(くだ)さい。」

一寸法師(いっすんぼうし)は こう いって、ぴょこんと おじぎを しました。

宰相(さいしょう)殿(どの)は 笑(わら)いながら、

「おもしろい 小僧(こぞう)だ。

よしよし 使(つか)ってやろう。」

と 言(い)って、そのまま 家(いえ)に 置(お)いてくれました。



3

一寸法師(いっすんぼうし)は 宰相(さいしょう)殿(どの)の 家(いえ)で

働(はたら)くように なってから、体(からだ)は 小(ちい)さくても、

真面目(まじめ)に よく 働(はたら)きました。

大(たい)へん 賢(かしこ)くて、気(き)が 利(き)いている ものですから、

みんなから、

「一寸法師(いっすんぼうし)、一寸法師(いっすんぼうし)。」

と いって、かわいがられました。

この お屋敷に 十(じゅう)三(さん)歳(さい)に なる

かわいらしい お姫(ひめ)さまが いました。

一寸法師(いっすんぼうし)は この お姫(ひめ)さまが 大(だいす)好きでした。

お姫(ひめ)さまも 一寸法師(いっすんぼうし)が

とても お気(き)に入(い)りで、どこへ お出かけ するにも、

「一寸法師(いっすんぼうし)や。一寸法師(いっすんぼうし)や。」

と いって、一緒(いっしょ)に 連(つ)れていきました。

だんだん 仲(なか)が よくなるうち、

何(なん)といっても 二(ふた)人(り)とも 子供(こども)な もの ですから、

普通(ふつう)の お友達(ともだち)の ように、

時々(ときどき)は けんかを したり、いたずらを し合(あ)って、

泣(な)いたり 笑(わら)ったり する ことも ありました。

ある 時(とき) また けんかを して、一寸法師(いっすんぼうし)が 負(ま)けました。

くやしく 思(おも)った 一寸法師(いっすんぼうし)は、

お姫(ひめ)さまが 昼寝(ひるね)を している 間(あいだ)に、

自分(じぶん)が 殿(との)さまから 頂(いただ)いた お菓子(かし)を 残(のこ)らず 食(たべ)べてしまって、

残(のこ)った 粉(こな)を 眠(ねむ)っている お姫(ひめ)さまの

口(くち)の まわりに なすりつけて おきました。

そして 自分(じぶん)は からっぽに なった お菓子(かし)の 袋(ふくろ)を

手(て)に 持(も)って、お庭(にわ)の 真(ま)ん中(なか)に 出(で)て、

わざと 大(おお)きな 声(こえ)で えんえんと 泣(な)きました。

その 声(こえ)を 聞(き)きつけて、

殿(との)さまが 縁側(えんがわ)へ 出(で)てきて

「一寸法師(いっすんぼうし)、どうした。どうした。」

と 聞(き)きました。

すると 一寸法師(いっすんぼうし)は、わざと 悲(かな)しそうな 声(こえ)を だして、

「お姫(ひめ)さまが わたくしを たたいて、

殿(との)さまが くれた お菓子(かし)を みんな 取(と)って 食(た)べてしまいました。」

と いいました。

殿(との)さまは びっくりして、

お姫(ひめ)さまの お部屋(へや)へ 行(い)きますと、

お姫(ひめ)さまは 口(くち)に いっぱい お菓子(かし)の 粉(こな)を つけて、眠(ねむ)っていました。

殿(との)さまは とても 怒(おこ)りだし、おかあさんを 呼(よ)んで、

「なぜ、姫(ひめ)に あんな 行儀(ぎょうぎ)の 悪(わる)い まねを させるのだ。」

と きびしく しかりました。

すると この おかあさんは、

少(すこ)し いじの 悪(わる)い 人(ひと)だった ものですから、

お姫(ひめ)さまの せいで 自分(じぶん)が しかられたのを とても くやしがりました。

そして くやしまぎれに、ありも しないことを いろいろと 作(つく)り、

お姫(ひめ)さまが ふだん 大臣(だいじん)の 娘(むすめ)に 似合(にあ)わず、

行(ぎょうぎ)儀の 悪(わる)い ことを さんざんに 並(なら)べて、

「いくら 止(と)めても、ばかに して いうことを ちっとも 聞(き)かないのです。」

と いいつけました。

宰相(さいしょう)殿(どの)は ますます 怒(おこ)り、

一寸法師(いっすんぼうし)に いいつけて、

お姫(ひめ)さまを お屋敷(やしき)から 追(おい)い出(だ)して、

どこか 遠(とお)い 所(ところ)へ 捨(す)てさせました。

一寸法師(いっすんぼうし)は 嘘(うそ)を 言(い)って、

お姫(ひめ)さまが 追(おい)い出(だ)される ように なったので、

すっかり 気(き)の毒(どく)に なってしまいました。

そこで どこまでも お姫(ひめ)さまと いっしょに 行(い)く つもりで、

まず 難波(なにわ)の おとうさんの うちへ 連(つれ)れていこうと 思(おも)って、

鳥羽(とば)から 舟(ふね)に 乗(の)りました。

すると 間(ま)もなく、流(なが)れが ひどくなり、

舟(ふね)は ずんずん 川(かわ)を 下(くだ)って 海(うみ)の 方(ほう)へ 流(なが)されました。

それから 風(かぜ)に 吹(ふ)き流(なが)されて、

とうとう 三(みっ)日(か)三(み)晩(ばん) 波(なみ)の 上(うえ)で 暮(く)らして、

四(よっ)日(か)めに 一(ひと)つの 島(しま)に 着(つ)きました。

その 島(しま)には 今(いま)まで

話(はなし)に 聞(き)いた ことも ないような ふしぎな 花(はな)や 木(き)が たくさん あって、

人(ひと)が 住(す)んでいるのか いないのか、

いっこうに 人(ひと)の 姿(すがた)は 見(み)えませんでした。

一寸法師(いっすんぼうし)は お姫(ひめ)さまを 連(つ)れて

島(しま)に 上(あ)がって、きょろきょろしながら 歩(ある)いて 行(い)きますと、

二(に)匹(ひき)の 鬼(おに)が そこへ ひょっこり 飛(と)び出(だ)してきました。

そして いきなり お姫(ひめ)さまに とびかかって、

一口(ひとくち)に 食(た)べようと しました。

お姫(ひめ)さまは びっくりして、気(き)を 失(うしな)いそうに なりました。

それを 見(み)ると、一寸法師(いっすんぼうし)は、

いつもの ぬい針(ばり)の 刀(かたな)を きらりと 引(ひ)き抜(ぬ)いて、

ぴょこんと 鬼(おに)の 前(まえ)へ 飛(と)んで出(で)ました。

そして ありったけの 大(おお)きな 声(こえ)を 出(だ)して、

「これこれ、この お方(かた)を だれだと 思(おも)う。

三条(さんじょう)の 宰相(さいしょう)殿(どの)の 姫君(ひめぎみ)だぞ。

うっかり 失礼(しつれい)な まねを すると、

この 一寸法師(いっすんぼうし)が 許(ゆる)さないぞ。」

と どなりました。

二(に)匹(ひき)の 鬼(おに)は この 声(こえ)に 驚(おどろ)いて、

よく 見(み)ますと、足(あし)もとに 豆(まめ)っ粒(つぶ)の ような 小男(こおとこ)が、

いばって、 つっ立(た)っていました。

鬼(おに)は ケラケラと 笑(わら)いました。

「何(なん)だ。

こんな 豆(まめ)っ粒(つぶ)か。

めんどうくさい、のんでしまえ。」

と いうが 早(はや)いか、一(いっ)匹(ぴき)の 鬼(おに)は、

一寸法師(いっすんぼうし)を つまみ上(あ)げて、

ぱくりと 一口(ひとくち)に のんでしまいました。

一寸法師(いっすんぼうし)は 刀(かたな)を 持(も)ったまま、

するすると 鬼(おに)の おなかの 中(なか)へ すべりこんで いきました。

入(はい)ると おなかの 中(なか)を やたらに あちこち 回(まわ)りながら、

ちくりちくりと 刀(かたな)で ついて 回(まわ)りました。

鬼(おに)は 苦(くる)しがって、

「あっ、いたい。

あっ、いたい。

こりゃ たまらん。」

と 地(じ)べたを ころげ回(まわ)りました。

そして 苦(くる)しくなって、かっと 息(いき)を したときに、

一寸法師(いっすんぼうし)は また ぴょこりと 口(くち)から 外(そと)へ

飛(と)び出(だ)しました。

そして 刀(かたな)を 振(ふ)り上(あ)げて、

また 鬼(おに)に 切(き)って かかりました。

すると もう 一(いっ)匹(ぴき)の 鬼(おに)が、

「生意気(なまいき)な ちびだ。」

と いって、また 一寸法師(いっすんぼうし)を つかまえて、

大(おお)きな 口(くち)で のみこんでしまいました。

のみこまれながら 一寸法師(いっすんぼうし)は、

こんどは すばやく おどり上(あ)がって、

のどの 穴(あな)から 鼻(はな)の 穴(あな)へ 抜(ぬ)けて、

それから 眼(め)の うしろへ はい上(あ)がって、

何(なん)回(かい)も 鬼(おに)の 目玉(めだま)を つっつきました。

すると 鬼(おに)は 思(おも)わず、

「いたい。」

と さけんで、飛(と)び上(あ)がった ときに、

一寸法師(いっすんぼうし)は、目(め)の 中(なか)から ひょいと 地(じ)びたに 飛(と)び下(お)りました。

鬼(おに)は 目玉(めだま)が 抜(ぬ)け出(だ)したかと 思(おも)って、

びっくりして、

「大(たい)へん、大(たい)へん。」

と、後(あと)をも 見(み)ずに 逃(に)げ出(だ)しました。

すると もう 一(いっ)匹(ぴき)の 鬼(おに)も、

「こりゃ かなわん。

逃(に)げろ、逃(に)げろ。」

と 後(あと)を 追(お)って行(い)きました。

「はっはっ、弱虫(よわむし)め。」

と、一寸法師(いっすんぼうし)は、

逃(に)げて行(い)く 鬼(おに)の うしろ姿(すがた)を 嬉(うれ)しそうに ながめて、

「やれやれ、大変(たいへん)な こと でした。」

と いいながら、そこに 倒(たお)れている お姫(ひめ)さまを 抱(だ)き起(お)こして、

しんせつに お世話(せわ)しました。

お姫(ひめ)さまが すっかり 気(き)を 取(と)り戻(もど)し、

立(た)ち上(あ)がろうと しますと、

すそから ころころと 小(ちい)さな つちが ころげ落(お)ちました。

「おや、ここに こんな ものが。」

と、お姫(ひめ)さまが それを 拾(ひろ)って 見(み)せました。

一寸法師(いっすんぼうし)は その つちを 手(て)に 持(も)って、

「これは 鬼(おに)の 忘(わす)れて 行(い)った 打(う)ち出(で)の 小(こ)づちです。

これを 振(ふ)れば、何(なん)でも ほしいと 思(おも)う ものが 出(で)てきます。

今(いま)ここで わたしの 背(せ)を 打(う)ち出(だ)してみますから、

見(み)ていてください。」

こう いって、一寸法師(いっすんぼうし)は、

打(う)ち出(で)の小(こ)づちを 振(ふ)り上(あ)げて、

「一寸法師(いっすんぼうし)よ、大(おお)きくなれ。

普通(ふつう)の 背(せ)に なれ。」

と いいながら、一度(いちど) 振(ふ)りますと 背(せ)が 一(いっ)尺(しゃく)のび

二(に)度(ど) 振(ふ)りますと 三(さん)尺(じゃく)のび、

三(さん)度(ど)めには 六(ろく)尺(しゃく)に 近(ちか)い りっぱな 大男(おおおとこ)に なりました。

お姫(ひめ)さまは その たびに 目(め)を まるくして、

「まあ、まあ。」

と いいました。

一寸法師(いっすんぼうし)は 大(おお)きくなったので、

もう うれしくって うれしくって、立(た)ったり しゃがんだり、

うしろを 振(ふ)り向(む)いたり、前(まえ)を 見(み)たり、

自分(じぶん)で 自分(じぶん)の 体(からだ)中(じゅう)を めずらしそうにながめていましたが、

一通(ひととお)り ながめてしまうと、

急(きゅう)に 三(みっ)日(か)三(み)晩(ばん) なんにも 食(た)べないで、

おなかが へっている ことを 思(おも)い出(だ)しました。

そこで さっそく 打(う)ち出(で)の小(こ)づちを 振(ふ)って、

そこへ 食(た)べきれないほどの ごちそうを 振(ふ)り出(だ)して、

お姫(ひめ)さまと 二(ふた)人(り)で 仲(なか)よく 食(た)べました。

ごちそうを 食(た)べてしまうと、こんどは 金(きん)銀(ぎん)、さんご、るり、めのうと、

いろいろな 宝(たから)を 打(う)ち出(だ)しました。

そして いちばん さいごに、大(おお)きな 舟(ふね)を 打(う)ち出(だ)して、

宝物(たからもの)を 残(のこ)らず それに 積(つ)み込(こ)んで、

お姫(ひめ)さまと 二(ふた)人(り)、また 舟(ふね)に 乗(の)って、

間(ま)もなく 日本(にほん)へ 帰(かえ)って来(き)ました。

4

一寸法師(いっすんぼうし)が 宰相(さいしょう)殿(どの)の お姫(ひめ)さまを 連(つ)れて、

鬼(おに)が島(しま)から 宝物(たからもの)を 取(と)って、めでたく 帰(かえ)って来(き)たと いう うわさが、

すぐに 世間(せけん)に ひろまって、やがて 天皇(てんのう)さまの お耳(みみ)にまで 入(はい)りました。

そこで 天皇(てんのう)さまは、ある 時(とき)、一寸法師(いっすんぼうし)を 呼(よ)びますと、

たしかに 上品(じょうひん)な 様子(ようす)をした

りっぱな 若者(わかもの)でしたから、これは ただ者(もの)ではないと、

よくよく 先祖(せんぞ)を 調(しら)べさせました。

それで 一寸法師(いっすんぼうし)の おじいさんが、

堀河(ほりかわ)の 中納言(ちゅうなごん)という えらい 人(ひと)で、

無実(むじつ)の 罪(つみ)で 田舎(いなか)に 追(お)われて 出来(でき)た 子(こ)が、

一寸法師(いっすんぼうし)の おとうさんで、

それから おかあさんも、やはり もともとは

伏見(ふしみ)の少(しょうしょう)将といった、

これも えらい 身分(みぶん)だと いう ことが 分(わ)かりました。

天皇(てんのう)さまは さっそく、一寸法師(いっすんぼうし)に 位(くらい)を 与(あた)え、

堀河(ほりかわ)の 少(しょうしょう)将と 呼(よ)びました。

堀河(ほりかわ)の 少(しょうしょう)将は、改(あらた)めて

三条(さんじょう)宰相(さいしょう)殿(どの)の お許(ゆる)しを うけて、

お姫(ひめ)さまを お嫁(よめ)さんに もらいました。

そして 摂津(せっつ)国(のくに)の 難波(なにわ)から、

おとうさんや おかあさんを 呼(よ)び寄(よ)せて、

うち中(じゅう)が みんな 集(あつ)まって、楽(たの)しく 過(す)ごしました。



おしまい。



言葉(ことば)の説明(せつめい)

明神(みょうじん)・・・・・・・・・神様(かみさま)のこと。

柄(え)・・・・・・・・・・ 手(て)で 持(も)ちやすいように、道具(どうぐ)などに つける 細(ほそ)長(なが)い 部分(ぶぶん)。取手(とって)。

さや・・・・・・・・・ 刀(かたな)などを 入(い)れておく 入(い)れ物(もの)の こと。

かい・・・・・・・・・ 人(ひと)の 力(ちから)を 使(つか)って、船(ふね)を 進(すす)める ための 細(ほそ)長(なが)い 道具(どうぐ)。

下駄(げた)の歯(は)・・・・・・・・木(き)で 作(つく)られた はきものの 一(いっ)種(しゅ)である、下駄(げた)の 支(ささ)えの 部分(ぶぶん)。

つち・・・・・・・・・・木(き)や 金属(きんぞく)で できた 道具(どうぐ)。ハンマー。

打(う)ち出(で)の小(こ)づち・・・・・大黒天(だいこくてん)と いう 神様(かみさま)が 持(も)つと いわれている 小(ちい)さな 魔法(まほう)のつち。

一(いっ)尺(しゃく)・・・・・・・・・長(ちょう)さの単位(たんい)。一(いっ)尺(しゃく)は 約(やく)30センチメートル。

さんご・・・・・・・・・海(うみ)で とれる 宝石(ほうせき)。

るり・・・・・・・・・・青色(あおいろ)の 美(うつく)しい 宝石(ほうせき)。 赤(あか)・緑(みどり)・ 紺(こん)・紫(むらさき)色(いろ)なども ある。

めのう・・・・・・・・・宝石(ほうせき)。白(しろ)、赤(あか)、緑(みどり)、紫(むらさき)色(いろ)などがある。

位(くらい)・・・・・・・・・・ 地位(ちい)のこと。偉(えらい)い立場(たちば)のこと。