きかない魔法(まほう)

文(ぶん):野呂(のろ) 昶(さかん)
制作(せいさく):立命館(りつめいかん)大学(だいがく)DAISY研究(けんきゅう)会(かい)


ある村(むら)に、有名(ゆうめい)に なって、お金持(かねもち)に なり、

ぜいたくな くらしが したいと、願(ねが)っている 若者(わかもの)が いました。


貧(まず)しい 農民(のうみん)では、朝(あさ)から 晩(ばん)まで、どんなに 汗(あせ)まみれに なって 働(はたら)いても、

願(ねが)いが かない そうに ありません。

ある時(とき)、不思議(ふしぎ)な 魔法(まほう)を つかう お坊(ぼう)さんが、この山(やま)の むこうに 住(す)んでいる ことを、
村人(むらびと)たちの うわさで 知(し)りました。

「どんな 魔法(まほう)か 知(し)らないが、ぜひ 習(なら)ってみよう」

若者(わかもの)は、さっそく 出(で)かけて いきました。

いくつもの 山(やま)を こえて、やっと、その お坊(ぼう)さんの いるという 村(むら)に 着(つ)きました。

川(かわ)に 下(お)りて 水(みず)を 飲(の)んでいると、川(かわ)ぞいの 小(ちい)さな 家(いえ)から、お坊(ぼう)さんが 出(で)てきて、

近(ちか)くの マンゴーの 木(き)の 下(した)へ 行(い)くのが 見(み)えました。



お坊(ぼう)さんは、何(なに)やら 口(くち)の 中(なか)で、となえごとを すると、

持(も)っていた つぼの 中(なか)の 水(みず)を、さっと 木(き)に ふりかけました。

すると、みるみる 葉(は)が しげり、花(はな)が 咲(さ)き、

そのあと、実(み)が なって、あまずっぱい においが、ただよって きました。

それを お坊(ぼう)さんは、つぎつぎ もいで、袋(ふくろ)に 入(い)れると、帰(かえ)って いきました。

十分(じゅっぷん)も たたない間(あいだ)の できごとでした。

若者(わかもの)は、おどろいて、ぽかんと 口(くち)を あけ 見(み)とれて いました。

「うわさに 聞(き)いた お坊(ぼう)さんとは、あの人(ひと)に ちがいない。

行(い)って 弟子(でし)に してもらおう。」

若者(わかもの)は、さっそく その家(いえ)に たずねて いきました。

若者(わかもの)が、あまりに 熱心(ねっしん)に たのむので、

お坊(ぼう)さんは、仕方(しかた)なく 弟子(でし)に しました。

若者(わかもの)は、水(みず)くみや、そうじや 畑(はたけ)仕事(しごと)など、よく はたらきました。

どんな ことでも、お坊(ぼう)さんの 言(い)いつけは、「はい」と、よく 聞(き)きました。

それは 一(いち)年(ねん)たっても、少(すこ)しも かわりませんでした。

お坊(ぼう)さんは、若者(わかもの)を すっかり 信用(しんよう)すると、いよいよ 魔法(まほう)を 教(おし)えてやることに しました。


となえごとや、つぼの 水(みず)の かけ方(かた)など、くわしく 教(おし)えると、

「いいかな、この 魔法(まほう)の 力(ちから)は、一度(いちど)でも うそを つくと、なくなってしまう。

どんな人(ひと)に 聞(き)かれても、けっして うそを ついては いけないよ。」
と、さとしました。


若者(わかもの)は、よろこんで 村(むら)に 帰(かえ)って いきました。

そして、教(おそ)わった 魔法(まほう)で、つぎつぎ マンゴーの 実(み)を みのらせ、

それを 売(う)って、お金(かね)を もうけました。


若者(わかもの)の マンゴーの 実(み)の おいしさは、ほかのとは くらべものに なりません。

うわさを 聞(き)いた 人々(ひとびと)が、遠(とお)くから 買(か)いに やってきて、

若者(わかもの)は、みるみる お金持(かねもち)に なりました。

うわさは、やがて 国(くに)じゅうに 広(ひろ)がりました。

ある時(とき)、王(おう)さまから、「ご殿(てん)に やってくるように」と、呼(よ)びだしが かかりました。

若者(わかもの)は よろこんで 出(で)かけて いきました。

「おまえは、マンゴーの実(み)を、どこから とってくるのじゃな。

神(かみ)さまからでも、もらって くるのか?」
王(おう)さまが 聞(き)きました。

「いいえ、マンゴーの実(み)は、わたしの 魔法(まほう)の力(ちから)で 作(つく)り出(だ)すのです。」

「その魔法(まほう)は、だれから 教(おそ)わったのじゃ?」

「はい、だれから 教(おそ)わったものではなく、わたしが あみだしたのです。」

若者(わかもの)は、高(たか)ぶった 気持(きもち)で いましたので、思(おも)わず、うそを ついてしまいました。

「ほう、それでは、さっそく 見(み)せてくれ。」

「おやすい ご用(よう)です。」


若者(わかもの)は、マンゴーの 木(き)の 下(した)で、となえごとを すると、つぼの 水(みず)を かけました。

ところが、いく度(たび) やり直(なお)しても、マンゴーの 実(み)は、みのりません。

若者(わかもの)は、青(あお)くなって ふるえだしました。

やがて、目(め)の前(まえ)が まっ暗(くら)に なって、その場(ば)に たおれて しまいました。




出典(しゅってん) 六度集経(ろくどじっきょう)