こわれた ゆめ

文(ぶん):野呂(のろ) 昶(さかん)
制作(せいさく):立命館(りつめいかん)大学(だいがく)DAISY研究(けんきゅう)会(かい)




昔(むかし)、インドの ある村(むら)に、一人(ひとり)の 欲(よく)深(ぶか)い 男(おとこ)が 住(す)んで いました。
とても なまけ者(もの)で、いつも 寝(ね)てばかり いました。

それでも、おなかがすくと、村(むら)の 家々(いえいえ)に、麦(むぎ)を もらいに 出(で)かけて いきました。
麦(むぎ)を もらって 帰(かえ)ると、半分(はんぶん)は 食(た)べ、あとの 半分(はんぶん)は、つぼに 入(い)れ、寝床(ねどこ)の すぐ 横(よこ)に しまって おきました。
家(いえ)の 下(した)は、浅(あさ)い 川(かわ)に なっていて、床板(ゆかいた)の あいだから、たえず、すずしい 風(かぜ)が 入(はい)って きました。

男(おとこ)の なによりの 楽(たの)しみは、つぼを のぞく ことでした。
麦(むぎ)が すこしずつ、すこしずつ、ふえていく ことが、うれしくて ならないのでした。

ある 夜(よる)の こと、男(おとこ)は 寝床(ねどこ)に 横(よこ)に なった まま 考(かんが)えました。

長(なが)い 日(ひ)でりが つづいて、米(こめ)も 麦(むぎ)も とれなく なってしまったら、
この 麦(むぎ)は たいそう 高(たか)い ねだんで、売(う)れるに ちがいない。

わしは その時(とき)、この 麦(むぎ)を 売(う)って、たくさんの お金(かね)を 手(て)に 入(い)れることに しよう。
そう すれば、その お金(かね)で、二(に)匹(ひき)の 山羊(やぎ)が 買(か)えるだろう。

山羊(やぎ)は 半年(はんとし)に 一度(いちど)、子(こ)どもを 生(う)むから、たいへんな 数(かず)に ふえるだろう。
わしは、山羊(やぎ)を 売(う)って、こんどは、牛(うし)と 馬(うま)を 買(か)う。
これも、しばらくすると、たくさんの 子(こ)どもを 生(う)んで、むれに なるだろう。

欲(よく)深(ぶか)い 男(おとこ)は、うっとりと 目(め)を とじました。

ああ、わしは、牛(うし)と 馬(うま)の むれを 売(う)り払(はら)う。
どれだけの お金(かね)が、わしの 手(て)に 入(はい)るか 数(かぞ)えることも できないほどだ。
わしは 大金持(おおがねも)ちに なる。


その お金(かね)で、こんどは、王(おう)さまが 住(す)んでいる ような、りっぱな 家(いえ)を 建(た)てよう。
たくさんの めしつかいを おいて、美(うつく)しい 着物(きもの)を 着(き)て、おいしい ものを 食(た)べて。
そうだ。ひょっと すると、わしに 大臣(だいじん)に なるよう、王(おう)さまから 使(つか)いが くるかもしれない。
わしが 大臣(だいじん)に なったら、仲間(なかま)たちは、どんな 顔(かお)を するだろう。
もし、わしの 気(き)に さわることを 言(い)う やつが いたら、わしは、そいつを、えいっと、足(あし)げに してやる。

欲(よく)深(ぶか)い 男(おとこ)は、思(おも)わず 足(あし)を 力(ちから)いっぱい、つき出(だ)しました。

すると、ドーンと 大(おお)きな 音(おと)が して、寝床(ねどこ)の 横(よこ)の つぼは、かべに 当(あ)たって われてしまいました。
「しまった。」

男(おとこ)は、あわてて、こぼれた 麦(むぎ)を ひろおうと しました。
でも、麦(むぎ)の ほとんどは、やぶれた 床(ゆか)の 下(した)に 落(お)ちて、見(み)えなくなって いました。

「ああ、なんと いうことだ。せっかく 大臣(だいじん)にまで なれると いうのに。
かんじんの 麦(むぎ)が なくなって しまうなんて!」

男(おとこ)は、大声(おおごえ)で 泣(な)き わめきましたが、どうしようも ありませんでした。



出典(しゅってん) パンチャタントラ