ネズミ一(いっ)匹(ぴき)から

文(ぶん):野呂(のろ) 昶(さかん)制作(せいさく):立命館(りつめいかん)大学(だいがく) DAISY研究(けんきゅう)会(かい)



一人(ひとり)の 若(わか)い男(おとこ)が、町(まち)の 広場(ひろば)で、ぼんやりと 立(た)って、ふん水(すい)を ながめて いました。
そこへ、二(ふた)人(り)づれの 商人(しょうにん)が、通(とお)りかかりました。

そのうちの 一人(ひとり)が、ふと 立(た)ちどまると
「こんな ところに、死(し)にかけた ねずみが いる、まだ、息(いき)が あるようだ。」と 言(い)いました。

すると、もう一人(ひとり)が、
「頭(あたま)の つかい方(かた)一(ひと)つで、こんな ねずみでも、大(おお)きな 金(かね)もうけの もとに なるのだが、
だれも 見向(みむ)きも しないだろうね。」
そう 言(い)って、立(た)ち去(さ)って いきました。

若(わか)い 男(おとこ)は、それを 聞(き)くと、
「ほんとうに そうか どうか わからないが、ひとつ やってみるか。」
ひとりごとを 言(い)って、その ねずみを 拾(ひろ)いあげました。

さて、若(わか)い 男(おとこ)は、ねずみを ぶら下(さ)げながら 近(ちか)くの 酒屋(さかや)の 主人(しゅじん)に、声(こえ)を かけました。
「この ねずみを 買(か)って くれませんかね。」
主人(しゅじん)が 猫(ねこ)を かっている ことを 知(し)っていた からです。
「まだ 生(い)きて いるのかね?一(いっ)金(きん)なら、あげる つもりで 買(か)って あげても いいが。」
人(ひと)の よい 主人(しゅじん)は 一(いっ)金(きん)を くれました。



若(わか)い男(おとこ)は、その お金(かね)で、はちみつを 買(か)いました。
そして、つめたい 水(みず)で うすめて、飲(の)みものを 作(つく)ると、
町(まち)はずれの 畑(はたけ)で、働(はたら)いている 人(ひと)の ところへ 出(で)かけ、飲(の)んで もらいました。

「これは おいしかった。ありがとう。」

その人(ひと)は お礼(れい)に、作(つく)っている 花(はな)を、ひとかかえ、わたして くれました。
若(わか)い男(おとこ)は、それを 町(まち)の 花屋(はなや)へ 売(う)りに 出(で)かけました。



花屋は、百(ひゃく)金(きん)で 買(か)って くれました。

「おお、すごい すごい。一(いっ)金(きん)が わずかの あいだに、百(ひゃく)倍(ばい)に なった。」
「さて、つぎは、何(なに)を してやろう。」
若(わか)い男(おとこ)は、よろこんで 言(い)いました。

その あくる日(ひ)は、朝(あさ)から大嵐(おおあらし)が 吹(ふ)きあれました。
家(いえ)の 屋根(やね)が とび、木(き)の 枝(えだ)は おれ、さんざん 吹(ふ)きあれて、夕方(ゆうがた)には、やみました。

若(わか)い男(おとこ)は、王(おお)さまの ご殿(てん)の 庭(にわ)へ 出(で)かけて いきました。
たくさんの 木(き)の 枝(えだ)がおれて、役人(やくにん)たちが、どうして いいか 困(こま)って いました。
「おれた 枝(えだ)や、たおれた 木(き)を くださるなら、わたしが きれいに してあげます。」
「どうせ、捨(す)てなければ ならん 木(き)や 枝(えだ)だ。持(も)って いってくれ。」
役人(やくにん)は、庭(にわ)の かたづけを、まかせて くれました。

あくる日(ひ)、若(わか)い男(おとこ)は、近(ちか)くで 遊(あそ)んでいる 子(こ)どもたちを、おおぜい よんできて、言(い)いました。

「あとで、あまい はちみつの 水(みず)を、飲(の)ませて あげるから、
庭(にわ)の 木(き)や 枝(えだ)を、みんな 拾(ひろ)ってきて、この 広場(ひろば)に つみ上(あ)げて くれないか。」

「おもしろい、やってあげる。」
子(こ)どもたちは かけ出(だ)して いきました。

おおぜいの 子(こ)どもたちの 力(ちから)で、庭(にわ)は みるみる きれいに なり、
木(き)や 枝(えだ)が 門(もん)の 外(そと)に、つみ上(あ)げられました。

若(わか)い男(おとこ)は、持(も)っていた 百(ひゃく)金(きん)で、はちみつを 買(か)ってくると、
つめたい はちみつ の 水(みず)を 作(つく)り、子(こ)どもたちに、好(す)きなだけ 飲(の)んで もらいました。

若(わか)い男(おとこ)は、今度(こんど)は、土(つち)で やきものを 作(つく)っている 人(ひと)を、よんで くると、
つみ上(あ)げた 木(き)や 枝(えだ)を 買(か)ってほしい、と たのみました。
「わたしたちには、たき木(ぎ)は いくらでもいる。
千金(せんきん)でなら 買(か)って あげる。」

こうして、若(わか)い男(おとこ)は、すこしの あいだに、千金(せんきん)もの お金(かね)を もうけました。
それからも、人(ひと)の あまり 考(かんが)えつかない ことを、つぎつぎ 考(かんが)えては、お金(かね)もうけを して、
一(いち)年(ねん)も たたないうちに、大金持(おおがねもち)に なりました。

商人(しょうにん)の 言(い)った ことは、ほんとう でした。


出典(しゅってん) ジャータカ