高(たか)い石(いし)の塔(とう)

文(ぶん):野呂(のろ) 昶(さかん)             制作:立命館大学DAISY研究会(せいさく りつめいかんだいがくでーじーけんきゅうかい)


ある時(とき)、王(おう)さまが 大臣(だいじん)に 言(い)いました。
「世界(せかい)で 一番(いちばん)高(たか)い石(いし)の 塔(とう)を 建(た)てたい。
 お金(かね)は いくら かかっても かまわん。
 石(いし)づくりの 名人(めいじん)を、さがしてこい。」
大臣(だいじん)は さっそく 家来(けらい)に 言(い)いつけて、石(いし)づくりの 名人(めいじん)を、さがしに 出(で)かけ させました。




半年(はんとし)あまりも かかって、家来(けらい)たちは、やっと 一人(ひとり)の 名人(めいじん)を 見(み)つけ、
王宮(おうきゅう)に つれて きました。
王(おう)さまは、よろこんで、
「ほうびは 望(のぞ)みしだいじゃ。
 とにかく 世界(せかい)に 二(ふた)つとない、りっぱな 塔(とう)を 建(た)ててくれ。」
と 言(い)いました。

さっそく、あくる日(ひ)から 仕事(しごと)は 始(はじ)まりました。
石(いし)を 切(き)り出(だ)す 者(もの)、石(いし)を 運(はこ)ぶ者(もの)、細工(さいく)を する者(もの)、
名人(めいじん)は おおぜいの 人(ひと)たちを、上手(じょうず)に使(つか)って、石(いし)の塔(とう)を 組(く)み立(た)てていきました。

一(いち)年(ねん)、二(に)年(ねん)、三(さん)年(ねん)が すぎて、やっと 石(いし)の塔(とう)は 完成(かんせい)しました。
その 細工(さいく)の りっぱな こと、がんじょうな こと。
雲(くも)の 上(うえ)に そそり立(た)つ 塔(とう)を 見(み)ながら、王(おう)さまは 満足(まんぞく)げに 言(い)いました。
「でかした。 さすが 名人(めいじん)だけ あって、たいした ものじゃ。」
さて、その 塔(とう)の 落成(らくせい)式(しき)の 日(ひ)、王(おう)さまは、ひそかに 家来(けらい)を よんで、言(い)いつけました。
「石(いし)づくりの 名人(めいじん)を 塔(とう)の 上(うえ)に 一人(ひとり) のこして、足場(あしば)も、はしごも、すべて取(と)りはずしてしまえ。」

家来(けらい)は、びっくりして 言(い)いました。
「そんな ことを すれば、名人(めいじん)は 下(お)りられなく なります。」
「そう、下(お)りられなく するのじゃ。
 名人(めいじん)が 生(い)きておれば、また よその国(くに)に たのまれて、
これより もっと 高(たか)い塔(とう)を、つくるかも しれんからな。」
家来(けらい)は、しぶしぶ それに したがいました。
石(いし)づくりの 名人(めいじん)は、たった 一人(ひとり)、高(たか)い 石(いし)の塔(とう)の 上(うえ)に、のこされました。



なわも、はしごも、手(て)がかりに なるものは 何(なに)一(ひと)つ ありません。
家族(かぞく)の 者(もの)は、ただ おろおろと、塔(とう)の下(した)に 集(あつ)まって、名人(めいじん)の 身(み)を 心配(しんぱい)していました。

夜(よる)に なり、人々(ひとびと)が すっかり 寝(ね)しずまると、
名人(めいじん)の 奥(おく)さんは、塔(とう)の上(うえ)に 向(む)かって 言(い)いました。
「おまえさん、なんとかして、下(お)りる ことは できないかい。
今(いま)までも、おまえさんは、いろいろ 難(むずか)しい ことに 出会(であ)いながら、
それを のりこえて きたじゃないか。知恵(ちえ)を 出(だ)しておくれ。」
しばらく、しーんと して いましたが、やがて、上(うえ)から 声(こえ)が しました。
「今(いま)、いいことを 思(おも)いついた。
わしが これから、着物(きもの)の 糸(いと)を ほどいて 下(おろ)すから、
それに 軽(かる)くて、じょうぶな 糸(いと)を むすんでくれ。
それを わしが 引(ひ)き上(あ)げたら、今度(こんど)は 細(ほそ)いロープを むすんでくれ。
いいか、けっして とちゅうで、切(き)れないよう たのんだぞ。」
名人(めいじん)は、そう 言(い)うと、さっそく 着物(きもの)の 糸(いと)を ほどき、それを つないで、
下(した)に 向(む)け ゆっくりと 下(おろ)して いきました。

奥(おく)さんと、家族(かぞく)の 者(もの)たちは、言(い)われた とおり、それに 少(すこ)しずつ、太(ふと)い ロープを むすびました。
やがて、じょうぶな ロープが、名人(めいじん)の 手(て)に、とどきました。
名人(めいじん)は、その ロープを しっかりと、塔(とう)の 先(さき)に むすびつけると、ゆっくりと 下(お)りて いきました。

それから 三(さん)年(ねん)ほど たってからの ことです。
名人(めいじん)に ひどい しうちを した 王(おう)さまは、重(おも)い 病気(びょうき)に かかって、亡(な)くなって しまいました。





出典(しゅってん) 大荘厳論経(だいそうごんろんきょう)